2026年2月24日火曜日

ダイヤルを回していた日々

指を穴に入れて、
ゆっくりと回す。

カチ、カチ、と戻っていく音を
じっと待つ時間があった。

あの黒い電話機の前では、
少しだけ姿勢が正しくなった気がする。
誰かにかけるという行為は、
今よりも、ほんの少し特別だった。

番号を覚えていた。
家の番号、友達の家の番号、
よくかける場所の数字の並び。

一つでも間違えれば、
また最初から回し直し。
だから、慎重に、
数字を確認しながら指を動かした。

今は、名前をタップするだけでいい。
番号を覚える必要もない。
履歴も残るし、間違えてもすぐかけ直せる。

便利になったなと思う。
速くて、正確で、迷いがない。

でも、ダイヤルを回していた日々には、
あの「間」があった。
呼び出し音が鳴るあいだの、
少しの緊張。

出るのは誰だろう。
今、忙しくないだろうか。
そんなことを考える時間が、
ちゃんと存在していた。

声だけのやりとりも、
今より少し濃かった気がする。
顔は見えないのに、
相手の空気を感じ取ろうとしていた。

ダイヤルを回していた日々。
不便だったかもしれない。
でも、その不便の中に、
小さな覚悟と、静かな時間があった。

今は指先ひとつでつながる。
それは素晴らしいことだ。

それでも時々、
あのカチカチという音を、
懐かしく思い出す夜がある。

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