昔は、立ち上がらなければできなかったことが多かった。
電話をかけるにも、辞書を引くにも、買い物をするにも、体を動かす必要があった。
今はどうだろう。
気づけば、ほとんどのことが指先だけで完結している。
ニュースも、地図も、音楽も、買い物も。
わからないことがあれば検索して、欲しいものがあればタップする。
指が少し動けば、世界が反応する。
便利になったな、と素直に思う。
重い本を持ち歩かなくてもいいし、遠くの店まで行かなくてもいい。
待つ時間も、迷う時間も、ずいぶん減った。
でも、ふと立ち止まる。
減ったのは、時間だけだろうか。
迷う時間。
遠回りする時間。
誰かに聞くための勇気。
そういうものも、一緒に消えてはいないだろうか。
指先で答えに触れられる世界は、とても静かだ。
誰とも話さずに、一日が完結してしまうこともある。
便利さは、やさしい。
でも、やさしすぎるのかもしれない。
不便だったころは、面倒だった。
だけど、その面倒の中に、ちいさな出来事があった。
店員さんとの何気ない会話や、道に迷った先の発見。
今は、失敗も最短距離で修正できる。
それはすごいことだ。
それでも時々、
あえて何も検索せずに歩いてみたくなる。
地図を見ずに、知らない道へ曲がってみたくなる。
指先を止めた瞬間、
世界は少しだけ広くなる気がする。
便利になったこの時代で、
あえて不便を選ぶこと。
それもまた、
贅沢なのかもしれない。
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