きがつけばボタン1つで、
車のエンジンがかかるようになっていた。
鍵を差し込んで、
少し力を入れて回す、
あの一瞬の感触は、
いつの間にか記憶の奥にしまわれている。
今はただ座って、
ブレーキを踏んで、
ボタンを押すだけ。
便利になったな、と思う。
でもその感想は、
昔みたいに大きな驚きではない。
「すごい」よりも、
「ああ、そうだったな」という
確認に近い気持ちで、
今日もエンジンは静かにかかる。
考えてみれば、
こういうことは車だけじゃない。
調べものも、
文章を書くことも、
誰かに聞くことさえ、
いつの間にかボタン一つになった。
手間は確実に減った。
時間も短くなった。
その分、
立ち止まることや、
考え込む時間も、
一緒に削られている気がする。
それが悪いとは言い切れない。
助かっているのは、
間違いない。
ただ、ときどき、
鍵を回していたあの一瞬みたいな、
小さな手応えが、
少しだけ恋しくなる夜がある。
便利になった世界の中で、
今日も私は、
何気なくボタンを押す。
それが当たり前になったことに、
気づかないまま。
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