2026年2月24日火曜日

地図を折りたたんでいた時代

カバンの中に、一枚の大きな紙を入れていた。
広げると風にあおられて、
両手を使わないと持てないくらいの地図。

目的地を探して、
現在地に小さく印をつける。
道を指でなぞりながら、
「たぶんこっちだろう」と歩き出す。

曲がり角をひとつ間違えるだけで、
一気に自信がなくなる。
もう一度立ち止まり、
地図を広げ直す。

あの時間は、少し不安で、
でもどこか冒険のようだった。

今は、ポケットの中に世界がある。
現在地は青い点で正確に示され、
音声が「次を右です」と教えてくれる。
迷う余地すら、ほとんどない。

便利になったな、と心から思う。
知らない街でも、怖くない。
時間も無駄にならない。

それでも時々、
地図を折りたたんでいた時代を思い出す。
うまくたためなくて、
変な折り目がついてしまうあの感じ。

迷ったからこそ見つけた店。
予定になかった景色。
通りすがりの人に道を聞いた会話。

正確じゃないからこそ、
物語が生まれていた気がする。

今は最短距離で目的地に着く。
でも、遠回りの中にあった小さな発見は、
少し減ったのかもしれない。

地図を折りたたんでいた時代。
あの少し不便で、少し不安で、
でも確かに胸が高鳴っていた時間。

たまにはナビを閉じて、
勘だけで歩いてみるのもいい。

迷うことは、
悪いことばかりじゃなかったと、
思い出すために。

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